
鉄道の駅もなければ、コンビニもスーパーもありません
信号機は町に1つだけの町、徳島県勝浦郡上勝町
不便だらけに見えるこの町が全国から注目を集める!?
その秘密を探りにいざドライブ!
- (写真)町の良さが一目でわかる素敵な場所です。勝浦川を挟んで右側が「月ヶ谷温泉村キャンプ場 パンゲアフィールド」。オールシーズン楽しめ、アメゴのつかみ取りもできます。左側の建物は、町唯一の温泉旅館「月ヶ谷温泉」。手前のつり橋は、全長62mの「いろどり橋」。
ありふれた日常や見慣れた自然を
みんなで楽しむパラダイスな町
徳島市から車を約1時間走らせると、そこはもう山の中。大部分が標高700m以上の山地に覆われ、急な斜面に棚田が点在する徳島県上勝町。人口は1500人弱の『四国で一番小さな町』です。ほとんどの人が顔見知りというこの町ならではの取り組みが実は全国から熱い眼差しを集めているのです。高齢者や女性に居場所と出番を作る『葉っぱビジネス』、ゴミをゼロにすることを決意した『ゼロ・ウェイスト宣言』、CO2排出削減を図る『バイオマス事業』などの活力が町全体を元気付けています。
- (写真左)キャンプ場からは四季折々の風景に溶け込む「いろどり橋」が望めます。高さは15mもあり、渡ると若干のスリルも味わえます。
- (写真中)「月ヶ谷温泉」の勝浦川を望む周りには遊歩道が整備されていて、キャンプ場へとつながっています。静寂の中で川のせせらぎに耳をすませば、いつまでも透き通った清流を眺めていたくなります。
- (写真右)徳島市方面から県道16号線で上勝町に入り上勝小学校の案内を目印に右折し慈眼寺の標識に沿って山道を進むと、突然車道の左側の開けた山肌に「灌頂ヶ滝(かんじょうがたき)」が現れます。落差が約80mあり、水量が多くないので途中から霧のように広がります。晴天の朝、虹が出現する様は荘厳で神秘的です。
- (写真左)近くの「雄淵(おんぶち)」。遊歩道で行けます。
- (写真中左) 標高550m、四国霊場20番札所鶴林寺の奥の院で四国別格霊場3番札所の「慈眼寺(じげんじ)」。弘法大師修行の地で『穴禅定』のお寺としても有名です。
- (写真中右)境内には大きな気根が垂れ下がる“乳イチョウ”がありました。
- (写真右)「灌頂ヶ滝」に向かう途中で見かけた巨大な野外アート『淵神(ふちがみ)の塔』。他にも7箇所あります。
伝統的な地場産品を育む
何世代も受け継ぐ大地の恵み
標高100m〜700mの間に大小55の集落が点在しています。中には、あんな所に家が!と驚かされるところもあります。そんな上勝町の高地に棚田が何箇所も点在しています。それぞれ作物が違っていたり、棚田の形状が違っていたり、車で廻ると意外な発見があります。『上勝晩茶』のお茶はこの棚田でも栽培されています。徳島県を代表する柑橘類といえば、ゆこう、ゆず、すだちですが、中でも“ゆこう”は、上勝町を含め一部でしか栽培されていない幻の果実とも言われ棚田の周りで見かけられます。
失ったら二度と取り戻せない
日本の農山村の景観や環境・文化を守る
上勝町はそんな気概が息づいています
- (写真左)この棚田農家の9代目という竹中利明さん充代さんご夫妻。充代さんは嫁いでから一度もこの場所で不便を感じたことがないとおっしゃっていました。
- (写真左)この棚田農家の9代目という竹中利明さん充代さんご夫妻。充代さんは嫁いでから一度もこの場所で不便を感じたことがないとおっしゃっていました。
- (写真中)こちらは、棚田と生活の営みが美しい棚田風景となっている「田野々(たのの)の棚田」。『上勝晩茶』発祥の地としても知られ集落は『かおり風景百選』にも選ばれています。
- (写真右)約800年前に中国からこの地に伝わったとされる『上勝阿波晩茶』。乳酸菌など自然界の微生物の力で発酵させる世界でも珍しい“後発酵茶”です。カフェイン含有量が少なく、苦味や渋みが抑えられ乳幼児から妊婦、お年寄りまで安心して飲めます。訪ねた「阪東食品」さんでは、ちょうど発酵を済ませたお茶を天日干しにしていました。有機JAS認定を取得しているので除草作業、茶つみから天日干しまで全て手作業で結構な重労働だそうです。
- (写真左)6月から8月にかけて茶つみをし、完成まで約2ヶ月。町内及び徳島市でも販売されています。
- (写真中)発酵樽の外側からスピーカーをあてクラッシクを聞かせていました。
- (写真右)町役場から北上すると、延長87.7km日本一の長さを誇る『剣山スーパー林道』の起点があります。写真の「角屋橋」が目印です。
ゼロ・ウェイストで、
環境にもパラダイスな町
上勝町は、「無駄をなくし、ゴミの出ない暮らしをしよう」と2003年日本で初めてゼロ・ウェイスト宣言をしました。ゼロとは『0』、ウェイストは『Waste(浪費・無駄・廃棄物)』のこと。未来の子どもたちにきれいな水や空気、大地を残すためゴミはなんと45分別しています。2020年4月にオープンしたゼロ・ウェイストセンターは、ゴミステーション、くるくるショップ、交流ホールやオフィス・ラボを備えた複合施設です。混ぜると『ゴミ』、分ければ『資源』は目からウロコの大発見です。
美しい湖畔に謎の“?”
この“?”の建物には、上勝町の思いがいっぱい詰まっています
風景を堪能し美味しいものを食べたら少しお勉強!
- (写真)標高700m以上の山々に覆われ、深い渓谷をなす絶景が広がっています。
- (写真左)ゴミ収集車が走っていない町の究極の再生術。『?』型の「ゼロ・ウェイストセンター」のゴミステーションでは、家庭で白トレイ、紙類、汚れたプラスチック、綺麗なプラスチックなど大まかに分けておき、こちらの施設に持ち込み、45分別されます。リサイクル率は約80%というから驚きです。
- (写真中)「くるくるショップ」は、町民が“自分では不要だけど、まだまだ使える”ものを持ち込み、欲しい人は無料で持ち帰るリユースショップ。
- (写真右)フリースペースの「交流ホール」。
- (写真左・中左) 1階は地元の野菜や加工品など美味しいものが詰まった産直市、2階はレストランの「いっきゅう茶屋」。
- (写真中右・右)センターに隣接する「くるくる工房」。使えなくなった鯉のぼりや着物を町のおばあちゃんたちがリメイクしています。
- (写真左)「HOTEL WHY」は、ゼロ・ウェイストアクションをコンセプトに昨年5月にオープン。宿泊を通じて上勝町の暮らしを体感し、日々のゴミを見つめ直すヒントを探ります。建物のHOTELの文字は使われなくなった道具、その下にはマキが積まれエコ感満載です。
- (写真中)客室は全室メゾネット。部屋を見回し、目を凝らすといたる所に廃材や古材がアップサイクルされています。
- (写真右)6歳以上の利用者には朝食がセットになっておりRISE & WIN Brewing Co.で作られたオリジナルメニューが届けられます。
- (写真左)チェックアウト時には45分別体験。
- (写真中)静寂の中に佇んでいます。
- (写真右)チェックイン時には上勝町が17年以上取り組んできたゼロ・ウェイストの歴史を田村治樹さんに聞きました。
百歳まで続けたくなる“彩”ビジネス
- (写真左) “彩(いろどり)”とは、上勝町が作り出した『葉っぱビジネス』のこと。紅葉、柿、椿などの葉っぱや桜や桃の花など料理の『つまもの』にする材料として商品化しています。84歳の西蔭幸代さんは翌日の出荷用に椿の葉っぱを摘んでいました。
- (写真中)注文取りは早い者勝ち!朝8時前にはパソコンとタブレットを駆使し真剣勝負。
- (写真右)高齢者でも生き生きと働けます。
森に親しみ、森を育て、森に学ぶ
- (写真左) 「千年の森ふれあい館」は、森の学校。森林環境教育や森づくりを通した交流の場として活用されています。
- (写真右)親子で参加出来る木工体験や薬草教室など登山の人も含めて年間8〜9,000人の人が訪れますと、スタッフの中西啓貴さん。
料理長の心づくしが伝わる彩豊かな季節料理
「エコホテル」宣言をした弘法大師ゆかりの温泉施設
春は、目の前を流れる勝浦川の上で800匹もの鯉のぼりが泳ぐ『彩恋こい鯉まつり』、夏はキャンプ、秋は上勝の自然体験イベントなどで年中賑わいのあるロケーションにあります。昔、弘法大師がこの地で修行している時に月ヶ谷の岩場に薬師如来が出現し「この霊水は万病を駆除する」と告げられ、大師様がこれを民に伝えたとされています。
- (写真左・中)上勝町特産のすだちワインや椎茸の天ぷら、アメゴの西京焼き、里山コンニャクの酢味噌、猪肉の蒸しポトフなど田舎ならではの自然の恵みを堪能。晩茶あんみつのデザートには感激。
- (写真右)日帰り温泉でも気軽に利用できます。
月ヶ谷温泉・月の宿
住所/上勝町福原平間71-1
新鮮な食事、風の匂い、
季節の移ろいを五感で感じる
上勝町らしさを体感するおしゃれなカフェ
上勝町出身のオーナーが『上勝町らしさ』を五感で体感するショールームとして創ったカフェ。新鮮な食べ物や全く汚れのない環境に加え、ゼロ・ウェイストの政策や葉っぱビジネス「彩」などの先進的な取り組みなど、どこにもない『上勝町らしさ』を伝えるため、カフェの空間や家具、食器、メニュー、BGMにこだわっています。斜めになった高い天井や大きな木のテーブルは落ち着いた雰囲気を作り出しています。人気のランチ(1,200円)は、上勝産棚田米、地元野菜、地元の農家さんが作った味噌、さらに箸置きには『いろどり』の葉っぱを使う徹底さです。
- (写真左)この日いただいたのは、キャロットケーキ(右480円)とゆこうのタルト(580円)。ドリンクは、ゆこう蜂蜜ソーダ(左570円)とみかんジュース(550円)。
- (写真中)広々とした空間は本当に寛げます。
- (写真右)自然に溶け込んだ外観が、心地よい雰囲気を醸し出しています。
cafe polestar
住所/上勝町大字福原字平間32番地1
ビール醸造所のガーデンで、みんなでワイワイBBQ
ごみゼロを理解してもらう場所として誕生
RISEは“上る”、WINは“勝つ”で両方を合わせると『上勝』。上勝をとことん愛するマイクロブリュワリー兼BBQレストランです。クラフトビールとBBQやプレートを提供しています。美味しいビールを追求しつつも楽しくゼロ・ウェイストをコンセプトに2015年誕生しました。上勝町の廃材を窓に利用したり、自然素材の塗料をしたり環境に配慮したサステナブルな建物です。店内ではビールの量り売り用のポートランド製のグラウラー・ボトルが売られていました。もちろんマイボトルの持ち込みもOKです。
- (写真左)独特な外観の建物。
- (写真右)役場の横田さん、柿本さん、今回お世話になった藤井さんに店長の池添亜希さんも加わってのBBQ。
- (写真左)BBQは、シシトウ、牛肉、ナス、カボチャ、コーンの串と赤エビ、スペアリブがついて1人前5,000円(ドリンク別)。
- (写真中)廃材が至る所にあるのにオシャレな空間。
- (写真右)これまでは廃棄されていた、果汁を絞ったあとの『ゆこう』の皮を香りづけに使用し、クラフトビールを製造しています。